スペイン、そして能登から

スペインと能登のことを主に書いています。

女性闘牛士 マリパス・ヴェガさん

もういつの頃かは覚えていないが、NHKでマラガ出身の女性闘牛士である

マリパス・ヴェガさんのドキュメンタリーが放送された。

スペイン好きとはいえ、闘牛はかなり敷居が高いので、見たことはないが、

男性社会で奮闘する彼女のことをずっと忘れることはなかった。

マラガを訪れた時も、アラブの城壁アルカサーバから街を見下ろしたときに、

闘牛場を見て、まず彼女のことを思い出した。

マラガの闘牛場での初めての女性闘牛士の出場が彼女だった。

結果は華々しいものではなかったが、これは牛の方に問題があるらしく、

観客からは牛を替えるようにとの要請があったが、審判が替えなかったのだ。

それでも、彼女の演技に観客からは惜しみない拍手が送られた。

 

なんとこの番組が令和元年の今日、放送から約20年を経てNHKで放送された。

放送されたのは2000年とのこと。当然、画面も四角い。

当時彼女は26歳。44歳の現在も現役の闘牛士として活躍しているが、

彼女を巡る状況はあまり変わらないとか。

スペインでは、ジェンダーによるパートナーへの暴力が非常に多い。

日本でもドメスティック・バイオレンスとして定着してきたが、

スペインでは、毎年多くの女性がパートナーの暴力によって死亡している。

政府の救済措置も後手後手になっており、助けられる命も助けられなくなっている。

社会、経済状況など理由は様々だが、なんといってもこの国の長い歴史が

背景にあるように思えてならない。

MACHISMO、日本では男尊女卑。

女性の参政権フランコ将軍の独裁が終わるまでは認められていなかった。

女性は男性の所有物でしかなかったのだ。

これが現在でも影響していると考えるのは当然だろう。

そんな日本以上の男性優位の社会、さらにその中でも男性による社会に

身を置くマリパスさんの苦労は想像を絶するものであろう。

もちろん、彼女の才能を認め、後援者となっているのは男性であり、

チームの全員が男性である。すべてのスペイン人男性がコテコテの

マチスモだとは思っていない。

それでも、厳しい世界であることには変わらない。

彼女のインタビューを聞いていて思うのは、何よりも「闘牛が好き」だということ。

お金や名誉のためでなく、純粋に闘牛という競技が好きなのだ。

角で突かれて大けがをしても、決してやめようとしない。

さらなる高みを目指して日々精進している。

 

昨今、スペインでも動物愛護の観点から闘牛を禁止する州が出てきた。

その最たるものは、あのカタルーニャであり、バルセローナの闘牛場は

おしゃれなショッピング・センターになっている。

 

牛も確かにかわいそうな気もする。しかし、これまでの闘牛の歴史の中で

命を落とした闘牛士も数知れない。

ロルカの詩でも闘牛士の死が詠われているように、人間も牛も同じように

命がけなのだから。

 

スペインの「国技」と言われた闘牛の在り方もかわりつつある。

それでも、命と名誉をかけて、雄牛に挑む闘牛士の姿が

見られなくなるのは寂しいと思う。

スペインの人々はどのように思っているのだろうか。