Ministerio del Tiempo
"Ministerio del Tiempo"は、スペイン国営放送制作のテレビドラマである。
その内容としては、「時間省」というお役所が、スペインの歴史に歪みが生じないように守っているというもので、省内にある各時代と繋がった扉からエージェントが、その時代に行き、歴史が書き換えられるのを防いでいるという設定だ。
全く科学的なニュアンスがないので、ファンタジーというところか。
でも、自国の歴史と自局の番組のセルフ・パロディという方があっている。
そもそも、誰が歴史を変えるのか・・・という疑問が生じるが、何かの偶然が重なって、現在認識されている歴史にならないことがあるという前提のようだが、現在から派遣さえたエージェントが歴史を変えそうになる方が多いように思える・・・
秀逸だったのは、スペインの英雄エル・シッドのDNAが、バレンシアとブルゴスにあるものとでは一致しないという事案。遺骨が同一人物の骨ではないということだ。
時間省のエージェントたちは調査のために10世紀に赴くのだが、そこにいたシッドはなんと過去の時間省のエージェントだった。もそも、アメリカの映画会社がシッドの映画を作るにあたって、リアリティを出すためにホンモノを見たいと言ったため、彼らをシッドの時代に連れて行ったが、あろうこと、敵と間違えられ、戦闘になってしまい、その時に本物のシッドが死んでしまったのである。
シッドがそこで死ぬなんて、歴史が大きく変わってしまうことから、このエージェントは自分がシッドの身代わりになったのだった。
かわいそうに、このエージェントは奥さんや子供に黙って、10世紀でカスティージャの英雄エル・シッドとして生きていくことになった。しかも、歴史のとおりに生きなければならないという、ありえない条件まで背負わされてなのだ。
このエージェントの荷物の中に家族の写真があって、現在から来たエージェントたちは、「やっぱりね」という感じになるが、本物のシッドの奥さん・ヒメナさん(映画ではソフィア・ローレンだった)は、ショックを隠せないというか、「なんて細かい絵なんでしょう!」と驚いていた。でも、このヒメナさん、さすがに偉くて、偽シッドが死に際にホントの奥さんの名前を呼んだら、手を握ってあげてた。
シッドは歴史どおりの生涯を終え、お骨も差し替え、めでたし、めでたし、なのだが、ヒメナがかわいそうすぎる。
そもそも、なぜこんなものがスペインにあるのかといえば、コロンブスの後援者で、レコンキスタを完了した女王・イサベル一世の時代の「ユダヤ人追放」に際して、あるユダヤ人が女王にこの時間の扉について告白、これを女王に献上するから、お目こぼしを・・・ということから始まっている。で、代々の王が管理していることになっているのだ。この回のイサベル一世役が、ドラマ「イサベル」でイサベル女王役だったミシェル・へネールだった。その上、時間省のエージェントの一人が「イサベル」でイサベル女王の夫・アラゴン王フェルナンド役のロドルフォ・サンチョだった。ちょっとやりすぎな気もするが、視聴者には大ウケなのだ。
そんなあり得ない設定のもとに繰り広げられる、スペイン史のパロディなのだ。
個人的に一番楽しいのは、大好きなベラスケスが時間省のエージェントになっていることだ。第一話から似顔絵係として登場。よくプラド美術館から文句が出ないものだ・・・ いや、超ウケているのだろう、あの国では。
その後は、どうしてもピカソに会いたいといって、長官を困らせたり、自分の絵が燃えるのはイヤだから歴史を変えてやる!とか、同僚の結婚式で飲みすぎたりと、とても人間的なベラスケスに、本物とは違う愛着を持ってしまう。
ゲルニカの帰還に際して、受取証が紛失してしまい、このままではアメリカからスペインに返してもらえない・・・という事案では、ベラスケスが直接ピカソにあって、その自筆のサインをもらうというミッションを果たすのだが、その時の会話がなんとも素晴らしい!
もちろん、ピカソはベラスケスだと知るわけもなく、ただのファンだと思っている。
P:プラド美術館は行った?
V:もちろん、行きましたよ。
P:素晴らしいでしょう。ずっと見てみていたい。
V:プラドではどの画家が気に入った?
P:ゴヤだよ、もちろん。
V:・・・・・ゴヤ・・・・
P:いや、ベラスケスの方が素晴らしいよ。ラス・メニーナス、見た?
V:もちろん、見ましたとも!(うれしくてたまらない表情がかわいい!)
(略)
V:あなたには、芸術で世界を変える力を持っている。必ずできるだろう。
その時に自慢したいので、サインをもらえますか?
こうやってベラスケスはピカソの自筆のサインを入手することに成功したのだが、それ以上に、自分をスペイン一の画家だとピカソに言ってもらって、とてもうれしそうだった。スペインの人々も涙が止まらないだろう・・・(そうでもないか・・・)
この後も、サン・アントニオ・デ・ラ・フロリーダ修道院のフレスコ画で煮詰まったゴヤを励ましに行ったりと、エージェントとして活躍している。まるでスペイン絵画の守護神のようだ。
個人的にやりすぎだと思うのは、フェリペ二世が無敵艦隊が負けるのを阻止した上に、その後の歴史を大幅に変えて、現代では「スペイン帝国と時間の王」としてやりたい放題をやっている回だ。天気予報でも実際の国営放送のお天気お姉さんが、スペイン帝国、つまり南米、フィリピンの天気も含めて解説しているシーンがあったり、週一回「王様の時間」というベネズエラでチャベス大統領がやっていた「こんにちは、大統領」みたいな番組までやっていたりと、ここまでやるのか、スペイン、恐るべし! という感じだった。
2019年秋には第4シーズンの放送が決まっている。残念なのは、他の番組のように国営放送のホームページでオンデマンドで見られないことだ。youtubeもすぐに削除されてしまう・・・
セルバンテスセンターがdvdを買ってくれるのを待つしかない・・・
第3シーズンのdvdもまだなのに・・・
日本でもNHKが同じような番組を作ればいいのに! NHKも最近ではウクライナのドラマのフォーマットでドラマを制作してるので、あり得ないことではないと思うが。
youtubeでは、ポルトガル語版があったから、ポルトガルかブラジルでも作っているはず・・・投稿しようかな。
似顔絵係は北斎がいいなぁ・・・